AutoDock Vina を Ubuntu 24.04 でセットアップする方法
はじめに
AutoDock Vina は、小分子とタンパク質の結合を予測する分子ドッキングツールです。CPUで動作する軽量なアプリケーションのため、比較的導入しやすく、まずは手元の環境で試しやすい点も特長といえます。
本記事では、AutoDock Vina のインストール手順と基本的な動作確認の流れを整理したうえで、テグシスが研究用PCをご提案する際に重視している「ワークフロー全体で止まらない環境設計」という考え方をあわせて解説します。
なお、検証は Ubuntu 24.04 LTS を使用し、インストールから動作確認までを同一環境で実施しました。
1. AutoDock Vinaを扱うPCのスペックはどう考えるべきか
AutoDock Vina は比較的軽量な分子ドッキングツールで、少数コアのCPU環境でも動作させやすいのが特長です。
一方で、テグシスにお寄せいただくご相談を見ると、Vinaを単体で完結させる運用はむしろ少数派で、前処理・後処理や周辺解析を含めて複数のソフトウェアを組み合わせるケースが一般的です。こうした運用を前提にすると、ボトルネックになりやすい工程が変わり、求められるPCスペックも大きく変わってきます。
実際にご相談いただくことの多いソフトウェア例
GPU を使用する計算
- AlphaFold2
- AlphaFold3
GPU を必須としない計算
- BLAST 検索
- LAMMPS
- GROMACS
- Gaussian16
- GAMESS
- Firefly
- PyMOL
- Avogadro
このように、「GPU を活用する計算(AlphaFold 系)」と「CPU主体の計算(AutoDock Vina、BLAST、GROMACS、Gaussian16 など)」が同じ研究環境で扱われるケースが多いのが現状です。
テグシスの提案方針
そのためテグシスでは、AutoDock Vina を動かすための“最小要件”だけで構成を決めるのではなく、実際に併用される前後工程のソフトウェアやデータ規模まで含めて要件を整理したうえで、研究ワークフロー全体が滞りなく回る環境設計を基本方針としています。
この考え方により、計算の中断や処理待ちによる手戻りを抑え、研究の進行速度と結果の再現性・信頼性を安定して確保できるようにします。
AutoDock Vinaに関連するPC構成の例 (クリックで表示)
2. Ubuntu 24.04 における AutoDock Vina 導入方法
Ubuntu 24.04 LTS では、AutoDock Vina を主に以下の2つの方法で導入できます。用途や運用方針に応じて選択してください。
[1]APT 版 (推奨)
- Ubuntu 公式リポジトリから v1.2.5 を取得可能
- 依存パッケージ (Boost) が自動解決
- 複雑な設定不要ですぐに利用可能
初めて導入する場合や、手順の再現性・管理性を重視する運用では APT 版が最適です。
公式リポジトリ経由のためアップデートやバージョン管理もしやすく、トラブルを最小限に抑えられます。
[2]ソースビルド版 (必要な場合のみ)
- 開発版の利用や、独自ビルドが必要なときに選択
- Boost ライブラリなどの依存関係を自分で解決する必要あり
- トラブルシューティングの負荷が高い
研究用途で最新機能の検証が目的である、あるいは特殊な設定が不可欠である場合に限り、ソースビルド版の採用を検討するとよいでしょう。
3. インストール手順 (APT 版)
今回の検証では、Proxmox 上で動作する Ubuntu 24.04 LTS の仮想環境(4コア/メモリ16GB)を使用しました。
この構成でも AutoDock Vina のインストールから動作確認まで問題なく実行できることを確認しています。
そのうえで、APT 版の導入手順を以下にまとめます。
3-1 パッケージ情報の更新
sudo apt update
パッケージマネージャの情報(メタデータ)を最新の状態に更新します。
3-2 Git のインストール (サンプル取得に使用)
sudo apt install -y git
3-3 AutoDock Vina のインストール
sudo apt install -y autodock-vina
APT が Boost などの依存関係を自動で処理するため、複雑な設定は不要です。
3-4 バージョン確認
vina --version
期待される出力
AutoDock Vina v1.2.5
以上で、APT によるインストールは完了です。
4. 動作確認
4-1 公式サンプルの取得
cd /tmp git clone https://github.com/ccsb-scripps/AutoDock-Vina.git cd AutoDock-Vina/example/basic_docking
4-2 ドッキング計算の実行
vina --receptor solution/1iep_receptor.pdbqt \ --ligand solution/1iep_ligand.pdbqt \ --center_x 15.190 \ --center_y 53.903 \ --center_z 16.917 \ --size_x 20 \ --size_y 20 \ --size_z 20 \ --out result.pdbqt
4-3 出力の確認
cat result.pdbqt | grep "REMARK VINA RESULT"
または、結果の最初の部分を表示:
head -50 result.pdbqt
期待される出力(抜粋):
ーーーーーーーーーーーーーー mode | affinity | dist from best mode | (kcal/mol) | rmsd l.b.| rmsd u.b. -----+-----------------+-----------+---------- 1 -13.26 0 0 2 -11.29 3.01 12.42 3 -11.12 3.81 12.29 … ーーーーーーーーーーーーーーー
4-4 結果ファイルの確認
ls -lh result.pdbqt
result.pdbqt はテキストファイルです。PyMOLなどの分子可視化ソフトでドッキング結果を3D表示できます。
5. まとめ
Ubuntu 24.04 では、AutoDock Vina を APT から手軽に導入でき、依存関係も自動で解決されるため、基本的な手順だけで利用を開始できます。
一方で、PCスペックの検討を「Vina は軽いから」という理由だけで進めてしまうのは要注意です。実運用では、AlphaFold や GROMACS などの計算ソフトと組み合わせ、前処理・後処理を含むワークフロー全体で負荷が決まるケースが多く、必要なCPU・メモリ・ストレージ性能は大きく変わります。
テグシスでは、個々のソフトの推奨要件を満たすだけでなく、研究ワークフロー全体が滞りなく回る構成を基準にPCをご提案しています。「複数ソフトを併用する前提で、どこがボトルネックになりやすいか」「将来的な拡張まで含めてどう設計すべきか」といった観点でのご相談も、お気軽にお寄せください。
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